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第10章:商事留置権

1 商法上の留置権を商事留置権といい、これはさらに商人間の取引において広く認められる。
商人間の留置権(商521条)と業種ごとに認められる代理商(商51条)、
問屋(商557条)の留置権、運送取扱人(商562条)、陸上運送人(商589条)、
海上運送人(商753条2項、国際海運20条1項)の留置権とに大別される。
商事留置権は基本的に民事留置権(民295条)と異なるところはなく、ともに公平性を旨とする。
しかし、沿革上の違い、および取引の性質の違いから、商事留置権は、
成立要件や効果などにつき、民事留置権のそれを緩和、変更する特徴が見られる。

2(1) 商人間において、その双方のために商行為たる行為によって
生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は弁済を受けるまで、
その債務者との間における商行為によって自己の占有に帰した債務者所有の物
または有価証券を留置することができる。これを商人間の留置権という。

(2) 商人間の留置権が成立するためには、被担保物件につき、
①当事者双方が商人であること、②双方的商行為によって生じたこと、
③弁済期が到来していること、が必要であり、また目的物について、
④債務者所有の物または有価証券であること、⑤債務者との間の商行為を原因として
債権者が占有するに至ったものであること、が必要である。
このうち、②の被担保債権に関する要件は、被担保債権の発生と留置権の占有取得が
双方的商行為によって生じたという一般的関係があれば足りるという意味であり、
被担保物件と目的物とに個別的関係を要求する民事留置権と最も異なるところである。
これは民事留置権と異なり、商人間の継続的信用取引の枠の拡大と安全の維持確保、
および担保権の個別的設定に伴う煩雑さと不便さの除去に目的があるためである。
次に、目的物に関する④の要件は、民事留置権のそれと異なるが、
しかし、厳格に解する必要性は乏しく、例えば、占有取得時に債務者の所有にあれば
第三者に譲渡しても留置権は成立すると解される。
なお、留置権が成立するためには、その適用排除特約が存しないことが
必要であることには差異がないと解すべきである。(商521条但書)

3(1) 代理商・問屋は、取引の代理または媒介、あるいは委託者のためになした物品の販売
ないし買入れによって生じた債権が弁済期にあるときは、別段の意思表示がない限り、
その弁済を受けるまでは、本人または委託者のために占有する物または有価証券を
留置することができる。(商51条、商557条)
前者が代理商の留置権、後者が問屋の留置権である。

(2) その要件はおおむね商人間の留置権と同一であるが、
被担保物件につき、代理商が本人のためになした取引の代理
または媒介によって生じたもの、あるいは問屋が委託者のためになした
物品の販売または買入れによって生じたものに制限される点が異なる。
また、目的物につき、本人または委託者のために占有する物または有価証券であればよく、
必ずしも本人の所有のものでなくともよいとする点が異なる。

4(1) 運送取扱人・運送人は、運送品に関し受け取るべき報酬・運送賃・立替金・
前貸金・碇泊料、共同海損分担金・救助料などのために、運送品を留置することができる。
(商562条、商589条、商753条2項、国際海運20条1項)

(2) この留置権は被担保物件が限定されている点で、
また、目的物との個別的牽連性を必要とする点で、他の商事留置権と異なる。
しかし、被担保債権が弁済期にあることを要しない点では、他の留置権とも異なる。
目的物が委託者以外の者の所有物であっても差し支えない点では
民事留置権と同一であるが、運送品に限定される点が特殊性を有する。
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